
2023年10月から始まった「インボイス制度」。
最近、「機械の仕入先がインボイス登録していないけど大丈夫?」「うちは本則課税だけど損するの?」といった相談をよく受けます。
今回は、農業経営者の方向けに、取引先(例:機械メーカー)がインボイス未登録の場合の影響をわかりやすく解説します。
1.制度のポイントをおさらい:インボイスって何?
「インボイス(適格請求書)」とは、消費税の仕入税額控除を受けるために必要な請求書のこと。
登録された事業者だけが発行できます。
これにより、未登録の業者からの仕入れでは、消費税相当額を控除できなくなる=その分、実質的なコストが増えるということになります。
2.【自社:本則課税】の場合の影響
~インボイスがないと消費税が戻らない~
【事例】機械を税込110万円(うち消費税10万円)で購入
■ 取引先がインボイス登録業者の場合:
- 税抜100万円 + 消費税10万円 = 総額110万円
- このうち10万円は「仕入税額控除」で差し引ける
- 機械装置の取得価額は100万円
→ 取得原価:100万円、減価償却対象も100万円。消費税10万円は後で戻る。
■ a. インボイス未登録業者・経過措置終了後(2026年10月以降)
- 消費税10万円を控除できない
- 実質的に「税込110万円」が機械の取得価額となる
- 減価償却対象額は110万円
→ 取得原価に10万円上乗せ。消費税相当額が償却費として分割される。
▽ 法人税への影響:
- 消費税がすぐに戻ってくるのではなく、減価償却により毎年少しずつ費用化される
- たとえば耐用年数10年なら、消費税相当分10万円が毎年1万円ずつ費用化
→ 法人税の節税効果はごくわずかかつ時間がかかる
→ 一方、消費税は即時に支払うため、キャッシュフローは悪化
■ b. インボイス未登録業者・経過措置期間中(~2026年9月)
年度 | 控除割合 | 控除可能額 | 残り(取得価額に含まれる) |
---|---|---|---|
2023~2026年9月 | 80% | 8万円控除 | 2万円が取得価額に含まれる |
2026~2029年9月 | 50% | 5万円控除 | 5万円が取得価額に含まれる |
2029年10月以降 | 0% | 0円控除 | 10万円すべてが含まれる |
→ 経過措置中であっても、一部は機械装置の原価に含まれて償却対象となります。
3.【自社:簡易課税】の場合の影響
簡易課税制度を使っている場合、消費税は売上に応じて定額計算され、仕入税額控除の実額は関係ありません。
つまり、インボイスの有無は消費税納税額に影響しません。
■ 簡易課税では…
- インボイスがなくても問題なし(消費税控除の有無に関係なし)
- 税込み110万円で機械を購入した場合、その全額が機械の取得原価になります
- 減価償却の対象額は110万円
▽ 法人税への影響:
- インボイスの有無に関係なく、110万円を減価償却費として分割して経費化
- 本則課税と同じく、節税効果は時間をかけて徐々に発生